知財自在

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知財業務を希望する理工系新入社員が配属希望欄に書くべきこと

 皆さん、こんにちは。

 私は、通算でメーカーに約22年勤務の弁理士です。

 

 最近は、大学でも理工系の学生向けに知的財産関連の講義があるなど、世間一般的に知財に対する意識が高まってきたと感じています。そのせいか、新卒で知財業務を希望する若者も出始めており、知財部員としては嬉しい限りです。

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 一方、これまで知財部門は、主に研究開発部門からの異動で人員を賄っており、新卒の配属先としてはまだまだマイナーな部門であると思います。

 昨今、リストラなど将来に対する不安への備えとして、専門性を磨くことの重要性が盛んに喧伝されています。よってコアスキル早期形成の観点から、知財業務を希望する新人の方の多くが、配属希望欄に「知財部」と迷わず記載するかもしれません。

 しかし、実はこれは適切ではありません。

 私の20年以上のメーカー勤務の経験からすると、知財業務を希望する新入社員は、最初から知財部に行くべきではなく、研究開発や事業部の技術を希望し、そこで5、6年勤務後、知財部に異動するべきなのです。

 

 この理由は以下の3つです。

1.技術スキルを身につけやすい

2.社内で潰しがききやすい

3.発明者の立場が理解できる

 

 順番に詳細を説明していきます。

1.技術スキルを身につけやすい

 他の記事でも書きましたが、知財業務においてコアになるスキルは特許法や出願の実務知識など知財系スキルと、担当する技術分野の技術スキルです。前者は知財部門に行ってからも身につけることができますが、後者を後から身につけるのはかなり大変です。

 研究開発業務や事業部の技術担当を5、6年経験すると、当該担当した技術については一定の専門知識、業界知識を身につけられると思います。このような知識が知財部に異動した後も活きてくるのです。

 これは、事務所や調査会社などの知財サービス会社でも同じと推定します。つまり知財業務については入ってからいくらでも指導できます。しかし技術知識については深い経験を積ませることはできません。よってこれらを持った状態で入ってきて欲しい、事務所等のマネジメント層はそのように考えているのではないでしょうか。

 事実、ある事務所のメンバー紹介を見ていますと、結構な年齢まで大学等で研究者であった人を新規に採用したことが読み取れて驚いたことがあります。最近は大学にも知財担当を置くなど、大学教員も知財を意識しながら研究活動をしてきたと思われるので、その人の知財経験も相当なものであったのかもしれません。とは言え、こうまでして技術知識のある人が欲しいのか、と改めて研究開発経験の価値を認識したものでした。

 

2.社内で潰しがききやすい

 入社して実際に働き出すと、思い描いていた業務と違ってた、やっぱり別の部署に行きたいと思うようになった、こんな経験は誰もが持っていると思います。よって、知財業務が面白そうだと感じて希望通り知財部に配属になった新人が、やはり自分の理工系のバックグラウンドが活きるのはここ(知財部)ではない!などと思い直した、というのは十分あり得ることです。

 このように入社時の配属部署から別の部署に自分の希望で異動したくなった場合、研究開発や技術業務の方が、理工系の職種に広く移ることが可能で、場合によっては営業など文系職種でも歓迎され得ます。また入社後、色々な部署の様子を見たが、結局、入社時に思ってた通り、知財業務に就きたいと思った場合でも、このような職種からであれば社内で異動可能です。

 また転職の場合も、いきなり他社の知財部はさすがに難しいですが、事務所であれば転職できますし(もちろん年齢など他の制約はあると思われますが)、事務所で経験を積んだ後、企業知財部にさらに転職する道もあります。

 

3.発明者の立場が理解できる

 以前から強調している話ですが、これは本当に重要です。研究開発部門や技術部の人間が普段どんな業務を行なっているのか、その中で知財業務にかける時間はどのくらいか、どのような心持ちで知財部員と接しているか、これらは全て知財業務を円滑に行う上で重要、かつ経験しないとわかりません。

 1.では研究開発部門や技術部を先に経験しておくと技術スキルが身につくことがメリットと書きましたが、こちらの内容の方が本当は決定的かもしれません。知財部員が発明者と揉めているという状況は社内でよく見聞きします。その多くが、発明者の立場を理解せず、知財担当者が不用意な発言をしたことに端を発しているように見えます。

 発明者として自分が発案する側であったという経験は、出てきた案に対して謙虚であるべき、あるいは発明発掘や中間処理などでは自分も何らかの案や労力を提供しなければ価値にならない、など自らの立ち位置を知財部員に自然に理解させ、発明者とのコミュニケーション向上に貢献します。

 

<本日のまとめ>

 新卒のタイミングは、まだどんな部署にも配属され得る、キャリア上最も自由度が高い貴重な時期です。30代半ばを超え、若手というブランドが失くなった後では、なかなかこうは行きません。

 そのような重要な時期の配属先希望欄に、知財業務を希望する理工系新入社員はどう書けばいいのか、オススメは研究開発、もしくは事業部の技術です。

 

 それは以下の理由によります。

1.技術スキルを身につけやすい

2.社内で潰しがききやすい

3.発明者の立場が理解できる

 

 知財業務を希望する新卒の皆さんの今後のキャリアが充実したものになる一助になればと思います。

 本日は以上です。