知財自在

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メンバーのモチベーションを上げるために、知財部 管理職が語るべきこと

 知財部員の皆さん、こんにちは。

 私は、知財部で管理職歴3.5年の弁理士です。

 

 知財部で、一定期間マネジメントに従事すると、以下のような悩みを口にする社員が必ず出てきます。

「研究者が、非協力的で、僕らの業務が軽んじられてるようで・・・」

「他部署で働く同期に、特許なんて役に立ってるのか、と言われました」

 

 こんな時、マネージャーの立場としてはもちろん、「自信を持て!、我々の業務は、事業にこれだけ役に立っている」と、メンバーを鼓舞したいところです。

 一方、知財業務は、もしかの時の保険のような側面もあり、普段の業務は極めて地味なので、メンバーの士気を上げるためのエピソードなんて社内にはそうそうないし、どうすればいいのか?、そんな思いを抱いている知財部 管理職の方も多いのではないでしょうか?

 

 そこで今回は、周囲の部署からの冷ややかな反応をものともせず、知財部員にイキイキと仕事に取り組ませたい、モチベーションを上げたい、そんな時、知財部 管理職やリーダーがメンバーに語りかけるべき内容を提示したいと思います。

 

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 具体的には、以下の2つがあります。

 

1.特許がお金になることがある

2.特許による参入障壁で自社事業を守れている可能性がある

 

 順番に詳細を説明していきます。

 

1.特許がお金になることがある

 過去の記事でも書きましたが(知財部員の社内での地位向上 - 知財自在)、知財部は社内でその存在意義に疑問を呈されやすく、ともすれば冷ややかな目で見られがちです。その状況を打破するには、会社の利益に直接貢献する、すなわち単に特許を取るのみで終わらせず、ライセンスや特許権の売却など当該権利を活用することが重要です。

 これは最近の知財部ではどこでも言われていることと思います。よって社内にこのような例があり、かつそれを話せる状況であれば、社内でこんなライセンスに活用された、というエピソードをメンバーに紹介すればいいと思います。

 もしそのようなエピソードがなければ、以下のグーグルによるモトローラモビリティ買収の話はオススメです。

グーグルのモトローラ買収&売却をめぐる損得の皮算用 - ZDNet Japan

グーグルのモトローラ買収、目的は特許18件の獲得か--米報道 - CNET Japan

 上の記事にあるように、グーグルの自己申告の通り、モトローラモビリティの買収で得た特許の価値を55億ドル、買収の結果グーグルが取得した特許約2万4千5百件(2つの記事から、登録済特許約1万7千件、出願中のもの約7千5百件と思われるので、これらの合計をグーグルが取得した特許とした)を1ドル≒100円で計算すると、当該グーグルが取得した特許は1件あたり約2245万円となることが分かります。通常米国出願であれば1件あたりの権利取得・維持費用が200万〜300万くらいと思いますので、これを基準にすると、ざっくり7倍〜11倍くらいの値段がついたということです。

 多くの企業が、特許を十分活かしているとは言い難い状況ながら、多額の知財予算を確保して権利化を進めているのは、上記のように稀ではあるものの大きく化けることがある、という点が理由の1つではないでしょうか?

 もちろんこの例は、通信規格関連という最も権利活用が進んでいる、ある意味で特許活用の極北のような話なのでこんな値段がついている、というのはありますが、年単位の時間をかけて、研究者・知財担当者が苦労して取得した特許が7倍〜11倍の値段になる可能性がある、というのは何とも夢のある話だと思います。

 1社目の知財部で権利化に従事していた頃、上記のグーグルによる買収の話は仲間内で大きな話題になり、関連記事を読んでいた担当者の周りにみんなが集まってきたのを覚えています。それくらい、特許、すなわち自分達が日々従事している特許がお金になるかもしれない、という話はメンバーの士気を高めるのです。

 

2.特許による参入障壁で自社事業を守れている可能性がある

 これは特許の役割としてよく述べられている話です。しかし現実には、自分達が権利化に関与した特許がどの程度、自社事業に対する参入障壁になり他社を排除できたかを見える化するのは難しいです。定量的な算出はもちろん、定性的にもうまく証明できていないのが現状です。よって自分達の仕事が事業の役に立っている実感を持てていない知財部員も大勢いると思われます。

 上記の通り、自分達の周辺でこのような事例を探すことは難しいです。では、どうするか?、ごくたまにですが、当該企業自ら、他社の特許網によって新規参入が難しかったことをメディア等で吐露する場合がありますので、これをネタにするのがいいと思います。

 私が知っているのは、サントリーの幹部の発言です。一時話題になりましたが、ヘルシアで、花王が飲料分野に新規参入してきた際、以下の記事によると、サントリーも同様にメタボ対策飲料についてリサーチをかけたものの、花王の特許網に阻まれ、市場参入を断念したそうです。

「動的」知財マネジメントが円盤型市場を切り開く (2/2) - MONOist(モノイスト)

 知財部マネージャーは、上記のような例を示すことで、直接的に証明できないものの、自分達の業務が事業活動に貢献可能なものであることを説明し、メンバーの士気を高めることができるのです。

 

<本日のまとめ>

 知財業務そのものにメンバーが意義を見出すことができない場合(特に若いメンバーがこのような悩みを持つことが多いと思いますが)、管理職としてはこれらのメンバーのモチベーションを上げ、意欲的に業務に当たれるよう、対策を講じなければなりません。

 そのような時には、以下の内容を具体的なエピソードとともにメンバーに語りかけてもらえればと思います。

 

1.特許がお金になることがある

2.特許による参入障壁で自社事業を守れている可能性がある

 

 今日の内容は以上です。

 最後まで、お読みいただきありがとうございました。