知財自在

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知財部員が直面しがちなキャリア上の危機とその解決方法

 私は、以下のような経験を持つ、企業知財部勤務の弁理士です。

 

・研究開発部門で経験があることを強みとして、意気揚々と自分で手を挙げて知財部に異動したところ、自分がやったことがある内容はごく一部で、他は全く未経験の技術領域が担当であることを上司から告げられ、途方にくれる。

・新しい技術内容にもようやく慣れたころ、ある研究者から「担当してくれてよかった」と言われて舞い上がっていたが、技術スキルではなく研究者に厳しく言わない点を評価されたと後で知り、愕然とする。

・知財担当者として事業部を跨ぐ異動をし、これまでと関連性のない技術の担当となった際、研究者から技術知識の無さを指摘され、舌打ちされる。

 

 今、思い出しても、当時の不甲斐なさが蘇り、冷や汗が出ることがあります(笑)。私は、周囲の人から「焦ってないように見える」「悩みがない」などと言われることがよくあったのですが、上記を経験していた時期は正直、精神的に大変でした。

 

 しかしよく考えると、自分にとってきつかった上記の経験の背景には、ある共通の原因があったことに気づきます。そう、それはこれまで経験のない新しい技術を担当することになった時など、他の人(主には研究者)が理解している内容を自分は理解していない、ストレートに言うと「落ちこぼれ」の状態になって挫折感を味わっている、と言うことです。

 

 企業知財部で勤務された経験のある方はご存知かと思いますが、知財部は、通常いくつかの研究Grに1人の知財担当者を置ける程度の人的リソースしかないため、場合によっては研究者数十人分の内容を1人で担当するケースも少なくありません。

 

 アサインされた研究内容の技術バックグラウンドが似ている場合はともかく、例えば装置開発Grなら、回路、プロセス、メカ、ソフトの研究者がいずれも同じGrの所属であったりします。そうすると、技術背景の異なるこれらすべての発明内容を理解しなければなりません。そもそもの自分のスキルレベルの問題もあったと思いますが、これは結構大変なことでした。

 

 一般的に日本企業では、多くの人が、入社以来、何回かの異動を経験することになると思います。また、より成長できる、あるいは条件のいい職場を求めて転職するのは当たり前と言われて久しくなりました。

 よって知財部員のキャリアにおいても、新しい業界での勤務や、未経験の技術内容を担当する機会があるのがむしろ一般的であると思います。

 そうすると上記私が経験したような状況は誰でも起こりうる、知財部員が直面しがちなキャリア上の危機と言っていいかもしれません。

 

 そこで今回は、知財部員が不幸にして上記のような状況に陥った際、どのようにしてその危機を乗り越えればいいか、その具体的な解決方法について、私の経験から言えることをお話ししたいと思います。

 

 意識すべきことは以下の3つです。

 

1.話ができる人を探す

2.どんな小さな分野でもいいので自分が貢献できる領域を探す

3.いったん退いて、再挑戦する

 

 1つずつ詳細を説明していきます。

 

1.話ができる人を探す

 自分の技術知識不足で発明内容をうまく把握できない時などは、ともすれば研究者全員が自分にとってのストレッサーであるかのように見えてしまいがちです。しかしそんな時こそ、よく周囲を見回すべきです。知財担当者の知財知識・経験を頼りにしてくれたり、快く技術内容を説明してくれるタイプの研究者も必ずいるはずです。焦って視野を狭くせず、ぜひ「このような人」を発明者側に探してください。首尾よく見つかったら、「このような人」を大事にしつつ、遠慮なく質問して自分の技術レベルをアップしましょう。最初は少し気が引けますが、短期間集中的にお世話になり技術的にキャッチアップすることで、結局、「このような人」に対しても早くいい結果を返すことができます。

 

2.どんな小さな分野でもいいので自分が貢献できる領域を探す

 特に発明発掘や中間処理などの出願系業務では、法律知識や知財実務知識よりも、技術知識の方がインパクトが大きいことがよくあります。このような時に、技術知識が不足していると十分な貢献をすることができずに落ち込んでしまいます。

 しかしここでもよく状況をみてください。事例は少ないものの、知財実務上のレアケースについて相談されたり、進歩性判断について質問されたりするケースもあるはずです。要は、自分が全く貢献できてない訳ではないことは認識していいと思います。

 またこのような場合、調査業務などに活路を見出すことも一つの手です。出願系知財部門であれば、調査業務はサブ業務と思われてしまいがちで、研究者自らも調査をすることを求めらるので、存在意義を出せないと思う方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。研究者が調査する場合、特許分類を使いこなしている人はそう多くいませんので、このような点にフォーカスすることで、技術知識に弱いところはあっても、例えばより漏れの少ない検索式を作成して貢献するなど、研究者に「居てほしい人」と思わせることは可能です。

 

3.いったん退いて、再挑戦する

 上記1.2.によっても、やはり状況は改善されずメンタル的にも辛いものがある場合は、いったん退却を考えるのもありです。すなわち当該技術分野の担当を一度離れる、もしくは状況によってはGrや部署を変わっても構いません。

 ある程度社会人としての常識があればできる仕事や、閑職にひとまず異動した上で、もし今まで担当していた、ついて行けなかった技術分野でのキャリアに相当のメリットがある(ライセンス活動が活発であったり、将来有望な技術で今理解を深めれば次に繋がるなど)のであれば、当該閑職をこなしつつ、オフに勉強して知識をつけた上で、もう一度再チャレンジすればいいと思います。

 正直、自分が悩んで居た頃は、体面などを気にしてなかなか閑職に退くことに抵抗がありました。しかし、今、同じ状況になれば、場合によっては年単位で暇な仕事につくことにも抵抗はありません。

 後になって経験したことですが、自分のスキルレベルに対して少し余力のある業務に就くことは、本当にメリットが大きいものです。精神的な余裕が生まれ、難易度の高い技術の習得にも挑戦しようという気になります。

 実は私にとっては今がそのような状況で、だからこそ前の記事(社会人が大学院に通うことを勧める理由 - 知財自在)に書いたように社会人大学院に通うなど、通常では続けることが難しい自己啓発にも取り組むことができていると思っています。

 

 以下、本日のまとめです。

 経験がない技術分野の知財担当になることは、大手企業の場合、一定の年齢以上になっても十分に起こりえることです。その時、周りの人は分かっているのに自分はわからない、すなわち「落ちこぼれ」の状態となり、かつて小学校や中学校で勉強がわからないと嘆いていた同級生の気持ちが初めてわかった、という人も少なくないと思います。

 このような時にどうすればいいか?、解決策として、ぜひ以下を試してみてください。

 

<本日のまとめ>

1.話ができる人を探す

2.どんな小さな分野でもいいので自分が貢献できる領域を探す

3.いったん退いて、再挑戦する

 

 以上です。