知財自在

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コロナ禍で業績が悪化しそうな企業の知財部員がやっておくべきこと

 みなさん、こんにちは。

 私は、業績悪化で数回にわたり早期退職募集があった企業で勤務していた弁理士です。

 

 ようやく全国で緊急事態宣言が解除されるなど、明るい兆しも見えてきました。一方で、「これからコロナ不況が始まる!」「40代・50代のリストラ不可避」など、景気・雇用情勢の厳しい見通しが紙面を賑わす日も少なくありません。

 実際にどの程度深刻な状況になるのかは分かりませんが、主だったエコノミストらの予測を見ても、今年度は業績が悪化する企業が多くなるのは間違いなさそうです。

 幸いなことに、現在私が勤務する会社で今期業績が悪化しているという話は聞こえてきません。しかしこのご時世、今後、前の会社のように突然、人員削減する、となる可能性も無いとは言えません。

 そこで本日は、私の過去の経験から、企業の業績が悪化した場合、知財部が直面すると思われる状況と、それを見越して知財部員がやっておくべきことについて、述べていきたいと思います。

 

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 知財部員として今からやっておきたい行動は次の3つです。

 

1.発明者との関係を強化しておく

2.他メンバーの業務内容を把握しておく

3.グループの中で浮かないようにしておく

 

 以下にその詳細を説明していきます。

1.発明者との関係を強化しておく

 実際に企業の業績が悪化してくると、知財部のような、すぐに売上・利益に直結しない業務(他社からお金を取れそうなライセンス業務は別)を主とする部署、いわゆる間接部門には、即座にコスト削減の圧力がかかります。

 具体的には、前年度と比べて減らされた予算で年度をスタートし、かつ途中で一律何%か(場合によっては何割)の更なる予算カットを迫られるなどが予想されます。

 そうなると当然、知財部としては、費用のかかる外国出願をはじめとする出願・審査請求件数の抑制、維持年金削減を目的とした既登録案件の放棄などの動きをかけざるを得なくなります。その結果、知財担当者の日常業務は、いかにして自社事業を守る、あるいは他社に権利行使できる特許を発明者と作っていくかという前向きの仕事から、どの発明案を却下するか、どの登録特許を放棄するか、というような後ろ向きの仕事にシフトしていきます。

 これはさらにどんな結果を生むでしょうか?

 企業知財部で経験のある方はわかると思いますが、当然、発明者から猛反発を食らうわけです。「なぜ俺のが放棄で、あいつのはOKなんだ?」このような問いかけに、苦しいながらも答えつつ、わずかに残った要出願案件については、当該発明者とともに権利化を進めなければなりません。

 このように、発明者に嫌なこと(自分の案件放棄など)を伝えながら、一方では発明者をその気にさせ、別案件の権利化のモチベーションを上げる、というような離れ業を成し遂げるには、普段からの発明者との良好な関係構築が不可欠です。もちろん、これらは一朝一夕にはできません。常日頃から知財担当者が提供する情報が役に立ってる、あるいは自分の発明案を大事に扱ってくれてる、などと思わせなければ、こちらが苦しい時も協力はしてくれないのです。

 よってコロナ不況がまだ表面化していない今から、前の記事(研究・開発経験のある知財部員が意識していること - 知財自在)でも書いたように、知財部員も調査などで手を動かす、発明者が出してきた進歩性が苦しい発明案をブラッシュアップして出願できる状況にもっていく、など発明者との関係を強化する行動をとる必要があります。

 

2.他メンバーの業務内容を把握しておく

 知財業界では、平時でも一定数、知財部間、あるいは知財部から事務所、またその逆などの人の移動が起こっています。

 このような人の動きは、当然、不況になるとより活発になってきます。年齢が若い方が転職には有利であるため、会社の業績が傾き出すと特に若手の知財部員から転職者が続出し、ひどい場合には毎月のように送別会が開かれるという場合もあります。その結果、別の担当者のややこしそうな案件で、自分には関係ないと思っていたものでも、当該担当者が転職することで、突然、自分が引き継がざるを得なくなる、なども起こり得ます。

 よって、業績が悪化しそうな企業の知財部員は、できるだけ周囲のメンバーの業務も把握するべきなのです。揉め事が多い発明者の案件などはうまく避け、ライセンス活用候補になっているなどキャリアアップに繋がりそうな案件は、むしろ自分が後任になれるよう、オフに勉強したり、当該案件の発明者と仲良くするなど、先回りしておくことをお勧めします。

 ベタな話ですが、海外に憧れがあった私は、通勤時や週末に英語の勉強を続けると同時に、普段から海外企業とのライセンス担当者と定期的に情報交換したり、ライセンス料率の算出方法を示した判例を読み込むなど、関連知識のインプットに努めながら、週報などアピールできそうな場で、自分がライセンス業務にも関心があり、そのための努力をしていることを匂わせていました。

 その甲斐あってと断言はできませんが、結果として前職の経営危機時には、退職ラッシュに基づく業務担当者の変更時に、希望していた海外出張を伴うライセンス業務に就くことができました。

 このようなチャンスを得るためにも、部全体の業務内容、その担当者の情報を事前に把握しておく必要があります。

 

3. グループの中で浮かないようにしておく

 いよいよ業績悪化が現実のものになり、早期退職募集などリストラが始まった場合、自分が40歳以上なら、面談に呼ばれることを覚悟すべきです。自分の会社は日本的な会社だからとか、経営者は普段からリストラしないと言っている、などは非常時には一切アテにならないと覚えておくべきです。

 事実、私が以前に在籍した会社では、社長が「うちはリストラしない」と全員の前で断言したにもかかわらず、半年もすると「断腸の思いで、早期退職募集を決断しました」にすり替わったものでした。

 では、実際に早期退職募集が始まり、肩を叩かれる知財部員とはどんな人でしょうか。特に若手社員に多く見られる間違った認識は、実力がない人、出来が悪い人がリストラされる、というものです。

 確かに圧倒的に実力がある人が首を切られることはほぼありません。しかし自分も含む、多くの知財部員は特別に優秀な知財部員ではなく、その他大勢の知財部員なのです。つまり自分では、この集団の中では俺は実力があると思っていても、それはせいぜい自分の経験してきた範囲では多少、他の人より知識があるという程度のものです。一方、冷静に考えてみると、会社にとって価値がある経験・知識で、他の人は持っているのに、自分には無いものも多くあるはずです。

 よって自分は実力のある社員であり、それのみでリストラを乗り切っていけるなどという考えは、自分に甘い思い込みに過ぎません(ただし多くの日本企業ではまだ年功が残っているので、若いから大丈夫、というのは正しい認識と思います)。繰り返しになりますが、実際には多くの知財部員の実力にはそれほど差はなく、それによって辞めてもらう人を選別する、などと言うのは現実的ではないのです。

 もしそうならば、一体何でリストラ候補が決まるのでしょうか。前の会社での経験からすると、意外にも、それは浮いているかどうか、なのです。もっと言うと、特許法や知財実務知識は相当のものを持っている人でも、普段から言動が個性的で、みんなが正しいと信じている意見と異なる考えを持っていたり、周囲を気にせず普段からそれを吹聴しているような人、は狙われやすいのです。

 このような周囲からの印象も、リストラが始まった後になっていきなり変えることはできません。よって知財部員は普段から、浮いた言動、周囲から危なっかしいと思われる行動は差し控える必要があります。

 

 世の中では、リストラがあると多くの会社員の雇用が危機に直面するかのように伝えられることがあります。しかし実際にリストラされる人はやはり全体の中で少数ですし、本当の意味で生活が成り立たなくなるなど、窮地に陥る人はさらに少ない人数と思われます。

 とは言うものの、必ず一定数、そのような人が出てしまうのも事実です。

 今回の記事が、コロナ禍で業績が悪化しそうな企業の知財部員の社内サバイバルの一助になれば幸いです。

 改めて、以下の点を意識してみて下さい。

 

<本日のまとめ>

1.発明者との関係を強化しておく

2.他メンバーの業務内容を把握しておく

3.グループの中で浮かないようにしておく

 

 本日は以上です。

 最後までお付き合い頂きありがとうございました。