知財自在

全ての知財部員の抱える課題の解決、知財部員向けのお役立ち情報を提供するブログです

転職を考えている知財部員が候補企業を見る際のポイント

私は、40代前半の時、企業知財部に在籍しながら転職活動を進めた弁理士です。

 

振り返ると、当時は研究開発部門から知財部に異動して4,5年であったことから、まだまだ経験が浅く、知財業務自体を一括りに捉えていました。

すなわち転職候補の求人票を見る際も、研究所や事業部など現場の知財部と、本社の知財部を区別して考えていなかったり、ライセンスも出願も同じ知財業務なのだからそこから得られるスキルもそれほど変わらない、といった誤った認識を持っていました。

しかし自らも転職をしたり、他社知財部の方と交流する中で、転職を検討している知財部員が転職先(他社の知財部)について、事前にチェックしておいた方がいいと思える点がより見えてきました。

そこで、以前の記事(転職を考える知財部員が今の職場でやっておくべきこと - 知財自在)では今の職場でやっておくべきことを述べたのですが、今回は、転職する際に候補企業を見るべきポイントについて述べたいと思います。

 

本日の内容は、以下の3点です。

1.本社の知財か、現場(研究所や事業部)の知財担当か?

2.  ライセンス業務の機会があるか?

3.  どの程度、業務が分割されているか?

以下、詳細を説明します。

 

1.本社の知財か、現場(研究所や事業部)の知財担当か?

いわゆる大企業は、本社の知財部門(本社知財)以外に、各事業部・研究所にも知財担当者あるいは知財部門(現場知財)を置いている場合があります。

本社知財は本社の一部門になりますので、勤務地は都内など街中が多く、現場知財は、メーカーであれば、研究所や事業所のあるところになりますのでの田舎が多いです。

また業務でいうと、本社知財は、「戦略をやるんだ」といっている企業は多いです。戦略といえば聞こえはいいですが、それが具体的にはどんなものかは曖昧で、実質は管理業務のみ、すなわち代理人の評価や、全社統一の知財業務手順の策定などを行なっているところが多いと思われます。よって業務はそれほど大変でなく、残業も少ない、ワークライフバランスを取りやすい部門です。よって育児や介護などの事情を抱えている人にはいいのですが、実務スキルを身に付けたい若い人には、向かないように思えます。

一方、現場知財は、研究者や事業部の技術者が提出した発明案を権利化する、というのがメイン業務になります。よって発明発掘と出願、特許調査、中間処理など典型的な知財業務を一通り学べるのが最大のメリットです。特に事務所出身者は発明者と直接議論し合う機会が多くなる点に魅力を感じる人が多いようです。

勤務時間については、期末などの出願が集中する時期を除けば残業もそれほど多くなく自分の時間も確保しやすいと思います。この点は本社知財と大差ありません。一方、現場に近い分、発明者に対して嫌なこと(先行文献と差別化が難しく権利化断念、事業に貢献しないので年金支払い停止など)も直接言わなければならないなど、精神的にタフな状況がより多い点が懸念点です。

 

2.ライセンス業務の機会があるかないか?

 別の記事(知財部員の社内での地位向上 - 知財自在)でも書きましたが、ライセンス業務は稀少性が高い上、技術スキルもさることながら知財スキルの重要性も高く、知財部員が発明者と対等以上に活躍できる数少ない場面です。また活動の結果、他社からライセンス料を取れたとなると会社の利益に直接貢献しますし、自分たちが苦労して権利化した特許がお金になる手応えを感じ、知財部員、発明者とも大いに士気が上がります。

 このように実りの多い業務(とはいうものの、ライセンス料を取ってくるのは極めて難しいですが)なので、転職を考えるのであれば、ライセンス業務に関与できる知財部を選択すべきです。

 大企業の本社知財であればライセンス部門は必ずあると思います。ただし企業によってはライセンス業務は法務部門の仕事となり、知財部門は関与できなくなっている場合もありますので注意が必要です。

 また大手メーカー系列の知財関係会社も最近よく見かけますが、これらの会社のほとんどは出願・調査業務しかやっておらず、ライセンスは親会社の知財部門・法務部門が直接対応する場合が多いです。よってこれらの企業への転職もよく考える必要があります。

 

3. どの程度、業務が分割されているか?

 候補企業の中で、知財業務がどの程度細かく部門分けされているか?は、非常に重要な要素です。大まかに分けても、出願、調査、ライセンスと3つの部門があると思いますが、これら3つの業務は密接に関連し合っているので、各々の経験が別の業務に活きます。よってこれら全てを自分で担当できるところが望ましいです。

 比較的経験の浅い人であれば、中規模のメーカー知財はオススメです(中規模以下のところは知財部がないところが多い)。これらの企業では、知財部の規模も小さく人的リソースの余裕もないため、1人の知財部員が多くの役目をこなす必要があります。よってうまくいくと出願、調査、ライセンスの全てを経験する可能です。

 また大手企業であれば、業務単位でなく技術単位で担当者を配置する知財部があります。この場合も、特定の技術において、出願・調査・ライセンスと全ての経験ができる点が、業務単位で区切られた会社よりも恵まれていると思います。

 

<本日のまとめ>

本日は、転職を考える知財部員が、自分の市場価値をあげる業務経験を積める会社かどうか?の視点から、候補企業のチェックポイントとして、以下の3点をあげました。

 

1.本社の知財か、現場(研究所や事業部)の知財担当か?

2.  ライセンス業務の機会があるか?

3.  どの程度、業務が分割されているか?

 

特に若い人の場合は、年収も気になるとは思いますが、自分の将来にとって役に立つ経験が積めるか?という観点から、上記を意識して求人票チェック、面接での質問をしてもらえればと思います。

 

本日は以上です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

研究・開発経験のある知財部員が意識していること

 私は、研究・開発業務を約10年経験した後、希望を出して知財部に異動し、知財業務に従事して約10年の弁理士です。

 

 かつて知財業界は、研究・開発や技術部での業務を経て異動してくる人がほとんででした。しかし最近では新卒者の配属先として知財部があり得るなど、知財業務専従できた人も出始めています。

 知財業務には技術知識がマストであることを理由に、研究・開発業務経験のないメンバーに否定的な意見を述べる知財部員もいます。が、私はそのようには思いません。事実、前の会社で上司だった人は、研究・開発業務の経験こそありませんでしたが、長く一つの技術を担当していたことから技術理解力は高く、知財実務の知識も豊富で、部下や研究者から慕われていました。

 一方で、研究・開発業務経験があるからこそ発揮できる業務上の姿勢や進め方があるのも事実と考えています。

 そこで今回は、これらの研究・開発業務経験のある知財部員だからこそ持っているものについて、私が感じるところを提示したいと思います。

 

 内容は以下の3つです。

1.研究者・開発者から提出された発明案を大事なものとして扱う。

2.研究開発の目的や事業化について、曖昧な要素があることを理解する。

3.研究開発部門と知財部門の立ち位置を理解した上で、言いにくいことも指摘する。

 それぞれ、詳細に説明します。

 

1.研究者・開発者から提出された発明案を大事なものとして扱う。

 以前にも書きましたが、研究者から提出された発明案を「レベルが低い、誰でも思い付く」などとバカにしたり、「こんなの使えない」と批判するのみで、自分からは何も提供せず、研究者から煙たがれる知財担当者がいます。

 自分に経験があれば分かるのですが、研究者・開発者にとって知財活動に取れる時間はそれほど多くありません。”技術が分かっている人”として、自身の開発業務以外に、装置の導入・管理、開発技術の事業化、役所への申請書類(規制薬品を使うとか)まであらゆる業務を、研究者・開発者は割り振られます。そんな中、彼らは何とか時間を確保して知恵を出し、発明提案書を提出してきている、というのが現状なわけです。

 この時点で、知財部員は私も含めまだ何もしていません。要は、出願系の知財部員の仕事は研究者・開発者の提案があってはじめて成り立つ、ということになるわけです。

 このような立ち位置を理解すれば、作家に対峙する編集者のように、研究者・開発者のモチベーションを上げつつ、自らも協力して活用できる権利に持っていくこと、が知財部員にとって必要な姿勢であることすぐに分かるはずです。

 研究開発業務の経験のある知財部員は、研究者の苦労、置かれた状況が理解できるため、たとえ使えなそうも無い発明案であっても、調査など自らも手を動かしながら、当該発明案の修正ポイントを提示し、より使える権利に持って行こうと努力する傾向にあります。

 この点は、当該経験のない知財部員と差が出やすい点であり、このような姿勢は研究者からも支持されることが多いです。

 

2.研究開発の目的や事業化について、曖昧な要素があることを理解する。

 特に調査業務に従事する一部の知財部員に見られるのですが、侵害予防調査などで、調査対象となる出荷予定の自社製品の仕様がはっきりと定まらない状態で調査依頼が来た場合などに、「製品がどんなものかまだ決まらずに調査なんかできるか!」と言ってキレる担当者がいます。

 侵害予防調査を行う側の立場から見れば、調査対象製品の仕様が決まっていない状態で適切な調査はできない、という認識は正しいです。しかし調査を依頼してくる研究者・開発者(この場合は事業部が多い)からすれば、製品の仕様は直前までお客さんや生産現場の事情などで変更になることがあり得る、一方で製品出荷する以上、侵害予防調査はしなければならない、という板挟み状態であるのが実情な訳です。

 研究・開発業務経験者はもちろんこのような研究者・開発者の立場を理解しています。よって当該経験のある知財部員は、調査仕様において曖昧な部分があっても、そのような状況では侵害予防調査として一定の限界があることは説明しつつも、どこを落とし所に調査をすべきかを自ら提案する、といった姿勢で、業務に取り組むことが多いです。

 このように研究者・開発者の置かれた立場を理解して柔軟な対応をする傾向がある点も、当該経験のある知財部員のいいところです。

 

3.研究開発部門と知財部門の立ち位置を理解した上で、言いにくいことも指摘する。

 上記1.2.で指摘したように研究者の状況、心理は十分理解する必要があります。モチベーションアップの為に、しょぼいと思える提案も否定せず、むしろこちらから方向性を提示することも必要です。

 しかし一方で、世の中は世知辛いです。研究開発部門と知財部門という立場や役割が異なる部門同士が協力しあえる、分かり合える、ということはほとんどありません。むしろ対立関係にあるのが普通、とさえ言えるかもしれません。

 なぜなら知財部門は事業に役立つ権利を取得するというが最大のミッションであり、使える権利を取得するために発明者のモチベーションをあげていい関係を築くことを部分的に諦める必要がある、つまり対立を承知で嫌なことを言わざるを得ない場合もあるからです。

 と言うことは、研究開発部門と知財部門は、根っこのところで理解し合う、完全にお互い協力し合う関係になることは難しい、ということですが、この点も、研究開発部門と知財部門の両方を経験した知財部員は理解できていることが多いです。

 よって発明者が、自身の実験などで時間がない中、苦労して発明案を完成させたことが分かり心情的にはうまく出願に持って行きたい場合でも、当該発明案からどうしても事業に役立つ、すなわち自社製品をカバーしたり、ライセンスに使えたりする特許を作れそうになければ、当該発明提案を却下することも、研究開発業務経験のある知財部員は厭いません。

 もっとも、この決定を発明者に伝えるのは勇気がいります。せっかく発明者と、作家・編集者のような関係になっていても、発明者が怒って一気にやる気をなくす場合もあります。

 しかし、これを恐れる訳にはいきません。この場合、言い方はもちろんありますが、躊躇せず、却下を発明者に伝えるべきなのです。これをしないとその知財担当者は結局発明者に舐められ、彼らにとって都合のいい人で終わるでしょう。

 この点は、上記1.2.と矛盾するかのような内容ですが、最も重要なことです。

 

<本日のまとめ>

 研究開発業務経験のある知財部員であるがゆえに、業務でうまく対応していると思われる点として、以下の3点を本日は紹介しました。

 

1.研究者・開発者から提出された発明案を大事なものとして扱う。

2.研究開発の目的や事業化について、曖昧な要素があることを理解する。

3.研究開発部門と知財部門の立ち位置を理解した上で、言いにくいことも指摘する。

 

 繰り返しになりますが、本日の内容は、研究開発業務経験のある知財部員がそうでない知財部員より優れている、あるいはそのような経験が必須である、と言っているのではありません。

 しかし今日紹介したような、研究開発業務経験に基づく業務上の姿勢や進め方は、知財部員として有利な要素の一つであるとは思いますので、当該経験の有無に関わらず、知財部員の方には、ぜひ今日の内容を業務に役立ててもらえればと思います。

 

 本日は以上です。

 

 

 

 

知財部員が業績評価を上げる方法

40代の非管理職から、転職して1年で昇格・年収増を実現できた、知財部勤務の弁理士です。

 

このブログを読んでいただいている方の中には、日々スキルアップのための勉強や、よりレベルの高い業務を行うための行動を頑張っているのに、なかなか昇進やいい業績評価につながらず、モヤモヤを抱えているという知財部員もおられると思います。

私自身は研究開発業務を経て、30代半ばに自らの希望で知財業務に従事しましたが、研究開発部門、知財部門のいずれでも、20代、30代のうちは全く目が出ず、前の会社ではその他大勢の評価に甘んじていました。

しかし40代に差し掛かるあたりから(転職もしましたので)、以下を意識したところ、最初は少しずつですが、周囲の評価が好転し始め、最終的には直属の上司に気に入られ、上述の通りいい評価をもらうことができました。

そこで今回は、自発的に勉強するなど、スキルアップを頑張っているのに認められてないと感じる知財部員が業績評価を上げるにはどうすれば良いか、私の意見を以下に示したいと思います。

これまでの経験から効果があると言えることは、以下の1点です。

 

○上司(会社)をクライアントのように考える

 

事務所のように明確なクライアントがいたり、あるいは定量評価できる売り上げがある知財部はほとんどありません。よって知財部員は、”上司には嫌われているがお客さんからは評価されている、あるいは売り上げを多くあげている”、というアピールのしようがありません。

そうすると当たり前ですが、直接仕事を依頼・結果をチェックしている上司の印象がそのまま業績評価になってしまいます。

よって認められ、収入を上げるためには、中々受け入れることは難しいのですが、上司をクライアントと捉える、それが無理なら(実は、私もそこまでは無理なのですが)、せめて上司の依頼には全力で応え、また仕事を頼みたいと上司に思わせようと努力することが必要不可欠となります。

今、自分が上司の立場になって振り返っても、20代、30代の頃は自分のスキルをどう上げるかばかり考えていて、上司や会社の期待に応える、という意識が欠落していたように思います。

アサインされた仕事に対して、成長につながらない、スキルが上がらないなどの不満ばかりを述べ、あたかも自分がお客で、自分の成長のための教育を提供するサービス業者が上司、であるかのような言動を当時はしてしまっていました。

しかし30代の後半になっても一向に芽が出ない自分に嫌気がさし、というか俺は評価なんて気にしないと言いながら、実際は同期の昇進に一喜一憂していた状況を変えたいと思い、なぜ業績評価がその他大勢になるのか?(自分としては提案型で業務をし、自己啓発にも熱心に取り組んでいるのに)を冷静に分析してみた、つまり認められることが早かった同期、先輩と自分の行動を比較してみたのです。

すると、彼らはスキルアップやいわゆる意識が高い行動にも少しは取り組むものの、むしろあまり深く考えずに、素直に上司の言われたこと、会社で決まったことを受け入れ、すぐに行動に移していた点(例えば会社で支給された格好良くない作業着を文句を言わず活用する、多くの社員が面倒だと感じる情報セキュリティの確認手順書が発行されても、すぐにその内容通りの確認を行うなど)が、私と決定的に異なることが見えてきたのです。

要は、スキルや専門知識のような職業人として本質的な内容でなく、会社や上司に対する普段の態度、素直さのようなものが業績評価上の大きな差になっているように、私には思えました。

そこで私は転職して会社が変わったことを好機に、上述した早く認められている人がやっていることで自分はできていなかったことを実直に実践してみました。

具体的には、前の職場と比べて遅れていると感じても、今の会社や部署のルールをまずは不満を言わず受け入れ、他の転職者よりも早くにそのやり方を身に付けるようにしました。

また上司の期待に応えるべく、上司が決定したことに異議を唱えることを最小限にとどめ、賛成を大きな声で伝えるとともに、決まったことをすぐに実行に移しました。

 

するとどうでしょう?

前の会社では考えられなかったような、いい言葉(評価される言葉)を上司や周囲からもかけてもらえるようになり、スキルスキルと言っていた頃よりもはるかにスキルアップに繋がりそうないい業務にもアサインしてもらえるようになりました。さらに上述の通り、比較的早いタイミングで上司が引き上げてくれ、結果、収入アップにもつなげることができました。

 

私のごくささやかな成功の全ての原因が上述の意識をしたからではないと思いますが、重要な一要因にはなったと確信していますので、今回は上記の話をしました。

私と同じような境遇でお悩みの方はぜひ試してみてもらえればと思います。

 

<本日のまとめ>

知財部員が、高い評価を勝ち取るには、スキルや意識の高い行動よりもまずは、

 

上司(会社)をクライアントのように考える

 

を意識してみてください。

自分に対する周囲の態度に、何らかの変化を感じられると思います。

 

本日は以上です。

 

 

  

 

 

 

弁理士試験受験生が知っておくべき、知識定着までの勉強回数

7年くらい前に、3回目の受験で弁理士試験に合格した企業知財部に勤務する弁理士です。

 

今の職場でも何人か弁理士を目指しているメンバーがいます。

自分が苦労して合格した試験に、同じ志を持って自分より若い人が挑もうとしている。何とも言えない嬉しさがありますし、何とか役に立つことを言ってあげよう、と頼まれた訳でもないのに、つい考えてしまいます。

 

上記のような考えに耽りながら、自分の受験生時代を思い出していました。私は、予備校に通っていたので、勉強のやり方自体を迷うことはありませんでした。一方で振り返ってみると、そこでは話しが出なかったものの、あの頃に聞いていればもう少し余裕を持って勉強できたのに、と思えることがやはりありました。

 

そこで今回は、予備校では中々言ってくれないものの、これから受験に挑もうとする人、あるいはすでに受験勉強中の人の多くが持っているであろう悩みを解決するために、最も重要と思うことを1つだけ述べます。

 

当時の私と同様、多くの受験生は一言でいうと以下の不安に直面していると思います。

 

それは、

1つの条文の要件などを暗記して一応のアウトプットができたので、次の条文に取り掛かった頃には、前の条文の要件等を忘れている、

要するに、どれだけ勉強してもどんどん前にやったことを忘れていくので、こんな状況で試験当日を迎えても、とても合格できるとは思えない、

というものです。

 

この不安を解消するために知るべきことは、つまり、具体的にはどのくらいやれば、知識は定着するのか?、ということです。

 

一般的に、どんな苦しい状況でもそれが有限であり、定量的にここまで頑張れば今のしんどい状況は終わると分かれば、頑張り続けることはできます。

例えば100回答練を受ければ合格できるところまでいくと言われれば、100回は確かに多いですが、有限である分、このような基準が全くない場合よりも、全然、楽に感じられます。

 

そこで、あくまで私の経験に基づくものですが、知識の定着まで具体的に何回勉強を繰り返せばいいかを以下に示したいと思います。

 

それはズバリ、

 

3回

 

です。

 

より具体的には3回条文を回せば、合格を狙えるくらいに知識が定着するということです。

ここでいう条文を回すとは、要件など覚えるべき事項をインプットした後、法文集を伏せるなど何も見ない状況で、覚えたことを紙に再現できるかを確認する。再現できていれば当該条文は一応完了したものとして、次の条文に移る。これを少なくとも主な条文について一通り行う。

このようにして特許法なら特許法全体の条文を完了させた状態を1回回すと定義すると、これを3回やればインプットとしては大体問題はなくなる、ということになります。

あとは1ヶ月前、1週間前などの直前期に再度、苦手なところを中心に見直す、で勝負することができます。

よって次回の短答試験を受けられる方は、来年の4月の終わりまでに少なくとも特・実・意・商とパリ条約について”3回回す”を終えられるよう勉強のスケジュールを組んでもらえれば、今の段階でいかに覚えていたことをどんどん忘れてしまうとしても、試験当日には合格を狙えるレベルまでいけると思います。

 

いかがでしょうか?上記を読んだことで、やるべきことのボリュームが明確になり、勉強のモチベーションが上がったのではないでしょうか?

 

受験に限らずどんなことでも、具体的に数値でゴールを設定することで達成までにどんな時間配分で何をしていくか?などの段取りが格段に組みやすくなり、その分、ゴールに到達する可能性が高くなります。よってその他の分野でも今回のような数値基準を設けることを意識してみてください。

 

<本日のまとめ>

改めて言いますが、弁理士試験の勉強において知識の定着に必要な勉強回数は、

 

3回

 

です。

 

受験生の皆さんの合格をお祈りしています。

今回は以上です。

 

転職を考える知財部員が今の職場でやっておくべきこと

40代前半で、別の会社(2社目)の知財部に転職した弁理士です。

 

知財業界は、企業知財部と特許事務所というタイプの異なる2つの職場がありますので、元々、人の移動が活発です。また最近はどこの業界も人手不足で、知財関連も転職は活況と言われています。

よって知財部員の皆さんの中には、自分も将来、あるいはすぐにでも転職したいと考えている方もおられるのではないでしょうか?

 

今日はそのような方のために、知財部員が転職した際、新しい職場で役立つことで、今の職場(知財部)で経験しておいた方がいいと思うことを挙げてみました。

 

それは、

1.ライセンス業務

2.調査業務

3.発明発掘で発明者から指名された経験

の3つです。

以下に順を追って説明します。

 

1.ライセンス業務

ご承知の通り、企業知財部の業務は今も出願がメインのところが多く、ライセンス業務は案件自体あまりありません。逆にいうとそれだけ希少価値が高いということです。よって今、ライセンス業務に従事中という方はその状況を大事にされるべきです。

また、案件自体が少ないのだったらライセンスの経験はあまり役に立たないのでは?と思われる方もいるかもしれませんが、そんなことはありません。

ライセンス交渉で自社特許(自分が権利化に関与した特許であればなお良い)について相手先から厳しい反論を受けた経験は、出願時にどんな明細書を書けばいいか、についての有力な示唆を与えてくれるのです。

知財部経験者や事務所経験者が「いい明細書が書ける」と言っていてもそれらは実際にライセンスや訴訟などに使った経験がないまま、出願や中間処理の経験や知識のみに基づいて「いい明細書」と言っている可能性があります。

よってこの経験は、転職先で出願系業務をやるとしても、強力な武器になります。

 

2.調査業務

調査業務については、事務所経験者に実務経験のない人が多いです。また企業知財部経験者でも、「技術を一番良く知っている者がやるべき」と発明者に丸投げしてしまっているケースがよくあります。よって調査業務の経験を持った上で別の知財部に転職すると、それだけで周囲のメンバーに対する優位性になり得ます。

また明細書作成や中間処理を事務所に外注している知財部の場合、発明者から、知財部員は単に取次をしているだけで何もやっていないと思われてしまいがちです。しかし調査業務については、事務所は基本やりませんし、検索式検討から結果のレポート作成まで、すべて自分で行います。よって研究所など発明者サイドから自分の働きが認知されやすくなります。

その上で調査結果に基づくクレーム案まで提案できるようになれば、出願のためのコンサル業務を行なっていることになり、さらに評価されるようになるでしょう。

 

3.発明発掘で発明者から指名された経験

出願系知財業務に属する内容のため、多くの知財部で一応やってることになっているかと思います。よって別の企業の知財部に転職しても、発明発掘業務の経験者は大勢います。なので、経験しているというだけでは不十分です。

一方、この業務は、知財担当者間で差が最も出やすいものの1つです。発明者から提案書が出てくるまで何もせず、提案書が出てくると「これは特許にするのは難しい」などとダメ出しのみをして(ダメ出しをすること自体は時には必要ですが)、「早く次の提案書持ってきて」と相談に来た発明者を追い返す、どこの知財部でもこんな担当者が一定数はいます。

このような状況ですので、例えば提案書が出てくる以前の段階、すなわち研究部門の進捗会議などに知財担当者として出席して、発明になりそうな報告が出たら権利化を促したり、2.で述べた調査業務と合わせて提案書に書かれた発明案に対して先行技術を回避した上で権利化できそうな修正案を提示する、などの提案型の業務を行う担当者は、いい意味で目立ちます。

その上でこのような活動を半年、1年と続けると、そのうち発明者側から、「・・・さんに担当してほしい」という声が聞こえて来ます。こうなればしめたものです。

このような指名を受けることができれば、知財担当者としての自分に大きな自信が持てます。この自信が、新しい職場でも大いに活きてくるのです。

 

<本日のまとめ>

現在の職場での評価に不満がある、もっと収入を上げたい、知財部も企業の一部門である以上、多くのサラリーマンと同様、このような理由で転職を希望する人も多いかと思います。

しかし転職は始まりであり、移った先の新しい職場で活躍しないことには意味がありません。知財部での業務は比較的会社によって差が大きく(例えば明細書を内製するところと外注するところでは、求められるスキルが大きく異なる)、条件に惹かれて転職したものの、新職場で自分の実力が通用せず、挙句に軽んじられ、居場所がない、となると大変です。

そこで事務所出身者や他の知財部出身者もいると思われる転職先で、有利になると思われる、今いる知財部で経験しておくべきことを3つ上げました。

 

1.ライセンス業務

2.調査業務

3.発明発掘で発明者から指名された経験

 

自分のやることを自分で完全にコントロールすることは難しいですが、できるだけ上記3つを経験できそうな業務に自分から絡んでいって下さい。

 

本日は以上です。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

知財部員と特許事務所との間の良くない雰囲気を変える方法

前職では出願メイン(一部ライセンスもあり)、現在は調査・分析業務がメインで、マネージャーをしている、知財部に勤務する弁理士です。

 

最近はIPランドスケープという言葉が流行ったり、標準必須に関する知財業務など、知財部員・弁理士の業務の幅も広がりつつあります。

とはいうものの、やはり業務のメインは出願・権利化、という知財部員の方も多いと思います。事実、知財関連の求人を見ていても出願関連が最も多い印象を受けます。

突然ですが、そのような出願業務がメインの知財部員の方、特に明細書作成や中間処理の応答書面作成を特許事務所に外注している企業の知財部に所属している方に質問なのですが、周囲で以下のような状況を見かけないでしょうか?

 

・事務所がいかに使えないかを愚痴り、自分がフォローしないと業務が回らないことを一部の知財担当者が盛んに喧伝している。また時々、電話で事務所担当者を怒鳴りつけている。

・独立クレームの補正に合わせて従属クレームも補正する必要があるにも関わらず、従属クレームはそのままの補正書案を出してくるなど、仕事へのモチベーションが下がっているとしか思えないミスを事務所担当者が連発する。

 

上記のように、一部ではありますが、知財部員と事務所担当者の間で、(知財部員)上から目線で威張り散らす、(事務所担当者)嫌な相手だけどお客だから、仕方ない、ハイハイと返事はして、適当に捌いておくか、みたいな空気が形成されているのを感じることが私は多くありました。

 

本来であれば立場は違えど、どちらも一応の知財のプロとして給与を受け取っているわけですから、相互のコミュニケーションをよくして、共に会社に貢献する(事務所担当者からすれば取引先に貢献する)活用できる特許の創出に力を合わせて欲しいところです。

しかし、上記のようなシチュエーションは前職でも、現職でもみられましたし、他社の知財部の方と話した際も、飲み会などでポロっと話に上がることがありました。

よって多くの知財部で(上述のように外注している知財部で)現実的に起こっている問題であると推定します。

 

そこで、本日は、このような知財部員と事務所担当者の良くない雰囲気を変え、両者が張り合ったり、極端な上下関係に陥ることなく、風通しを良くするにはどのような方法があるか、知財部の一マネージャーとして思うところを以下に示したいと思います。

私が考える方法は、次の2つです。

 

1.知財部員がメインで考える案件と事務所メインで考えてもらう案件を明確に分ける。

2.知財部員と特許事務所担当者間の人事交流を実現させる。

 

それぞれ詳細を説明します。

1.知財部員がメインで考える案件と事務所メインで考えてもらう案件を明確に分ける。

上述のような良くない雰囲気は、知財部員と事務所担当者が同じ仕事をしているから起こるものです。

刑事物のアメリカ映画の中で、ロス市警など地元警察とFBIが揉めているのと同様、得意分野が共通する二人が同じ案件について仕事をすると当然に揉め事が起こります。どちらも自分のやり方にメンツがかかっているからです。

これを解消するには、例えば基本特許となるような重要案件については明細書作成、中間処理の応答案作成は知財部員が自分達で行う、一方重要度が低い案件や主要国での応答が終わったファミリの非主要国の対応などは最終チェックくらいはするものの、基本的に事務所に完全に任せる、など知財部員と特許事務所担当者の役割を明確に分けることが、効果的かと思います(事実、前職ではこのような対応をすることで、事務所との揉め事が減ったように思います)。

 

2.知財部員と特許事務所担当者間の人事交流を実現させる。

例えば会社内で対立する2つの部門があった場合、双方の部署に兼務する担当者がいるだけで、対立は随分解消するのを見てきました(前職では調査と出願の兼務など、部門を跨いで業務をする担当者がいましたが、兼務制度のない現職より関連する部門間の対立は少なかったです)。

同じように、例えば事務所の担当者を知財部に駐在させることで(知財部員を事務所に駐在させるよりハードルは低いと思われる)、知財部員と当該駐在者との間では少なくともお互いに思ったことが言いやすい雰囲気が生まれ、対立は減少すると思われます。

 

<本日のまとめ>

知財部側が事務所側に高圧的な態度をとり、事務所側はこれを受け流すもモチベーションを下げている、企業知財部と事務所の一部の担当者間ではこのような雰囲気ができてしまっているケースが良くあります。

 

これを解消するには、

1.知財部員がメインで考える案件と事務所メインで考えてもらう案件を明確に分ける。

2.  知財部員と特許事務所担当者間の人事交流を実現させる。

の施策が有効かと思います。

 

本日の内容は、担当者というよりもマネージャーの方にぜひご確認いただければと思います。

今回は、以上です。

 

 

 

 

社会人が大学院に通うことを勧める理由

某企業の知財部に勤務する弁理士です。

 

数年前の話になりますが、私は、都内にある社会人大学院(情報系の内容も入った経営系)に在職のまま通い、無事、2つ目の修士号を取得しました(1つ目は22歳から24歳にかけて工学部(化学系)からストレートに進学した際のもの)。

さらに2020年4月から別の大学院の社会人博士(経営系の内容も入った情報系)に入学する予定です。

 

本日のタイトルにもありますが、中年の社会人が大学院に立て続けに通う意味、それは自分のコアスキルを補完するためです。

 

企業で一定期間以上勤務すると、自分のスキルの賞味期限がそれほど長くない、あるいは、他により興味を持てそうな分野がある、と感じることは、誰でも1度や2度あると思います。そこで今からでも新たなスキルを身に付けたい、しかし年齢などを考慮するとやはり難しいかも・・・、このような想いは多くの人が持っていることでしょう。

 

そのような想いを実現するための手段として、私は、社会人大学院に通うことをお勧めします。

理由は以下の3つです。

1.行く人が少なく希少価値を狙える上、きっちりと勉強した印象を与えられるので社内でも一目置かれやすい。

2.  学んだ内容にもよるが、転職機会が得られる可能性が高まる。

3.  時間・費用は意外と何とかなる。

 

以下にその詳細を説明します。

1.  行く人が少なく希少価値を狙える上、きっちりと勉強した印象を与えられるので社内でも一目置かれやすい。

世の中は、自己啓発ブームで仕事に関する本を読んだり、資格取得のために勉強している、という人は大勢います。しかし大学院にまで通う、という人は中々いません。

私の現在の職場には、知財関連業務のメンバーは、50人くらい居ます。あくまで話として聞いている範囲内ですが、その中で大学院に通っていたのは私1人だけです(資格の勉強をしている、あるいは過去にしていたメンバーは6、7人は居ます)。そのため、大学院で学んだ内容は、例えば弁理士試験で身に付ける内容と比べ、希少価値を発揮しやすくなると思います。

私が修士の学生として通った大学院は統計・データ解析を売りにした経営系の社会人大学院で、今流行りのAI・機械学習も少しかじることができました。そのためか、最近社内でトレンドになっているAI・ITを活用した特許業務効率化の打ち合わせなどにも、一応関連する内容を学んだ者として一目置かれ、出席を要請されることがあります。

このような結果は、自己啓発として単に公開セミナーに通った、あるいはWeb・本で独学で勉強した、という程度では得られなかったと思います。

やはり修士課程のような学校に短くない期間(2年間)通って、少なくとも研究活動をやり終える程度(私が通った大学院では修士の研究とそれに伴う修論作成も必須でした)の知識を身につけたと見做されたから得られたものと考えられます。

このように社会人が勤務後に通う大学院であっても、そこを修了した実績については、企業は一定の評価をしてくれる(もちろん給料がすぐに上がるとかではないですが)と思われます。

 

2.  学んだ内容にもよるが、転職機会が得られる可能性が高まる。

同級生約30名の中で私と同じ40代は10名くらい居たと思います。その内、2名が学んだ内容を活かして転職(知財コンサルやデータ分析関連の企業)したと聞いています。40代というと通常は求人数も限られてくる中、2割が早々に次の職場を決めたというのはすごいことだと思います。学んだ内容が今流行りの統計・データ解析に関するものとはいえ、やはり自分のこれまでの業務経験に新しい得意分野をプラスすることは、自らの人生の選択肢を増やすようです。

 

3.  時間・費用は意外と何とかなる。

ここまでこの記事を読んでくれた人の中には、「意味があることは分かったけど、時間・費用の面から自分には現実的でない」と思う方も多いと思います。しかし私の経験からすると、これらは意外と何とかなるものでした。

最近は、夜間・土日開講の大学院も多くありますし、中には国立のものもあります(私が通っていた大学院もそうでした)。よって時間的には、さすがに平日0日というわけにはいかないですが、平日2日くらい6時、7時に会社を出られれば、土曜日と合わせて、問題なく大学院を修了できる時間の確保は可能です。

また授業料については、私立なら2年間で300万とか言わてしまう場合もありますが、国立であれば2年間で130万くらいです。また長期履修制度を設けている大学院(修士課程で当該制度を設けているところは少ないかもしれません。博士課程では多く見られます)もありこれを活用すると期間は長くかかりますが、毎月の支払いは安く抑えられます。例えば4年間で修士を修了する場合、国立だと月の支払いは2万代になります。もちろん普通のサラリーマンにはこれでも痛い出費ですが、全く検討できない金額ではないと思います。

 

<本日のまとめ>

新しいスキルを一から身に付けるのは、一定の年齢以降は難しいと思いがちです。しかし社会人大学院に通うことで可能性が高まると思います。これに意味がある理由は以下の通りです。

1.行く人が少なく希少価値を狙える上、きっちりと勉強した印象を与えられるので社内でも一目置かれやすい。

2.  学んだ内容にもよるが、転職機会が得られる可能性が高まる。

3.  時間・費用は意外と何とかなる。

 

本日は以上です。